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むらきむら さんプロフィール
映画が好き、映画より本が好き、本より音楽が好き。

高校、大学時代に大好きだったルースターズのボックス・セットに驚いている今日この頃。こんなの買えません。でも欲しいです(全部アナログの世代ですから)。



■過去記事一覧


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『眠り姫』チラシ

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『眠り姫』チケット


 映画が始まることを“開映”と表記することをちょっと前まで知らなかった。文章のとりまとめをしている時にクライアントから「ここの表記を開映にしてください」と指摘されて、初めて気付いたのだった。それから映画が始まるのは“開映”、舞台挨拶などがつく場合には“開演”と表記するようになった。

  もう1ヶ月程前、下北沢のタウンホールで2日間、3回限りの上映が行われた作品『眠り姫』は会場での上映時間前のアナウンスも、チラシの表記も“開演”であった。映画の上映だけど、ホールを借りての3回きりの上映だからなのか、室内楽団を入れての上映だからなのか、始まる前に気になったのはそのことと、お客さんがいっぱいになるのかなという本当に要らぬ、余計な心配だった。でも、それ以上に室内楽団とのコラボレーションがどんな形になるのかに期待を膨らませていた。

 『眠り姫』という作品の上映を知ったのは偶然だった。別の作品の紹介の関係である事務所にお邪魔した時に「友人がやっているこういう作品もあるんだけど」という具合に教えてもらったのだ。仕事上、情報はいっぱい来るのだが、そこから漏れる情報に目を向ける時間がない(来る情報すら漏れていくのだから・・・・)。だから、この作品の存在は全く知らなかった。でも上映形態が面白いので気になる。ただ、試写などはなく、作品はその3回の上映のみになるという。うちの作品の紹介には基本的に“観て(決める)”という条件があるため、紹介したいけどどうしようかと考えた挙句、割と自由のきくメールマガジン&プレゼントでの紹介という形に落ち着く。個人的にもこういう作品をプレゼントできるのは嬉しかったし、提供していただいたスタッフの方には本当に感謝している。

 『眠り姫』は『のんきな姉さん』で劇場監督デビューした七里圭監督の最新作である。元々はその『のんきな姉さん』の記念イベントに際して上映されているというが、出来に満足しなかった七里監督が撮り直し、編集し直しで新たに作り上げた作品である。だから、そのオリジナルとは別物だ。原作は『のんきな姉さん』と同様に七里監督が敬愛する漫画家 山本直樹。僕は『のんきな姉さん』も観ているのだが、その作品にはどうも空回りしたようなチープな印象を持っていた。要は面白くなかったのだ。ただ、その時に同時上映された『のんきな姉さん』の原型でもあるという短編『夢で逢えたら』はすごく良かった。テーマに共通性はあるが、なんであれがこうなるのかなというくらいかけ離れた作品だった。その差は『夢で逢えたら』はイメージに訴え、『のんきな姉さん』は話で訴えようとしているという感じだろうか。七里監督にはそういったイメージしかなかったので、これが生演奏付きの上映でなかったら、ここまでの興味を持てたかなとも思っている。

  勾配があり、舞台を見下ろすように設計されている北沢タウンホールのステージ。そのステージの真ん中には上から下までスクリーンが貼られ、舞台上にはコントラバスや譜面台、イスなどがほぼ半円形に配置されている。開演とともに照明が落ちたステージにひとりの男が現れ、指揮者のイスに座り、傍らのテーブルにノート・パソコンを置き、それを開き、起動させ、スクリーンを見つめる。そして映像が映し出される。映像は一段深く掘られた川から公園らしきところにある大きな木を捉えている。ゆったりとちゃぷちゃぷと画面は揺れている。その揺れにあわせるように舞台の上手と下手、客席の通路から楽団のメンバーが現れてくる。映像は夜中から夜明けへと向かっている。そして映像が白み始めた時、楽団が音楽を奏で始める。ここのシーンが最もスリリングだった。客席は何が起こるのだろうと思い、楽団のメンバーは最初の一音を出すことに緊張している。そこの感覚がぴたっと寄り添ったからこそ生まれた空気だった。

  物語はつぐみ演じる主人公が風邪を引き、生活臭の満ちたアパートでゴホンゴホンと横になっているシーンから始まった。ビックリしたことに、その後のシーンでは人が出てこない(ラストに同じ部屋でのつぐみが出てくる)。作品を紹介する際に文字資料で読みながらも意味不明だった(ゆえに書かなかった)“人の気配はすれども姿はない”の意味がそこでやっと分かった。つぐみ、西島秀俊、山本浩司など出演者の声はするが、彼らの姿はそこにはない。でも、彼らが居る場所は映っている。個人的にその場で思ったのは、これは中学の頃にラジオでよく聞いていたラジオ・ドラマにイメージ映像をかぶせたものだなということだった。

 イメージ映像をかぶせるといってもこれは難しい。役者が居るよりも更にチープさを出してしまうことがある。実際にこの作品でもそうしたシーンがあった。でも、総じてそうしたチープさが目に付くことは少なかった。それはつぐみが演じる主人公の女性である青地の心象風景のような空、町並みなどの風景が物語に被さってきていたからだろう。不思議なんだけど、物語が始まってからはそっちの方に入り込み、生演奏の音楽がついているだということは完全に忘れてしまっていた。ドラマを聴きながら、スクリーンに浮かび上がる風景に心象を感じるというそんな作品だった。

 あ、楽団がいたんだということに気付いたのは物語が終わり、テロップが流れ始めてからだった。極めて音数も少なく、抑揚の幅もない現代音楽的なアプローチの演奏はこの作品に完璧にはまり込んでいた。どれくらいリハーサルをしたのかは分からないが(そんなにしていないだろう)、初演にしてパーフェクトな演奏だった。なにしろ物語の時には演奏しているのに、その存在を忘れさせていたのだから。そして、映画が終わり、会場の明かりが点くとそこにいるのは楽団のメンバーである。もちろん、こちらの反応は暖かい、長い拍手だ。そして、ここでやはり“開演”で“終演”だなと頭と体が理解するのだ。

 この日の演奏を担当したのはカッセ・レゾナントという室内楽団。七里監督とは以前にも短編作品で共演しているし、主催者である侘美秀俊は『のんきな姉さん』の音楽も担当しているという七里作品の盟友的な存在でもある。あくまで映像を引き立てることに徹したこの日の音楽は本当に素晴らしかった。彼らのHPはこちら http://www.linkclub.or.jp/~takumi/C-R/ ストリーミングで演奏を聴くことも出来ます。http://www.linkclub.or.jp/~takumi/ こちらのブログも面白いです。個人的には何かの機会に彼らのオリジナルな演奏を聴きたいと思ったことも付け加えておきたい。

  仮に映画館で音を加えて、この作品が上映されたとしたらどう思っただろうか。それはそれで楽しめたはずだ。でも、始まるまでのワクワクとした気分、そして、あの夜が明けるまでの映像と演奏の感覚は生演奏だからこそ生まれたものだと思う。それは場を感じ取った、一体となった気分だ。

 僕が足を運んだのは第1回目の公演だったのだが、その時も関係者席以外は満席状態。翌日の公演では入りきれない人まで出たという。これは予想を超える大盛況だろう。友人から誘われたり、噂を耳にしたりと様々な形で集った人たちだと思うが、みんな、こういう作品にきっと興味津々だったんだよね。面白そうだなと思うもんね。観たくとも観られなかった人、このコラムを読んで興味を持った人も観たい!と思っているはず。だから、場所、時間の調整などが大変なのは分かるが、再上演の機会がどこかであればと願っている。少なくともDVDなどのソフトにはしで欲しくない。そういう作品があってもいいと思うのだ

 

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