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■電気羊プロフィール
アニメーター、編集者を経て現在はフリーライター兼翻訳者のハシクレをしている。好きな映画は「ブレードランナー」、好きな役者はコリン・ファースと嵐寛寿郎。だんなについて、目下カリフォルニア州サンタクルーズに滞在中。せっかくなんで、コミュニティ・カレッジに通いつつ、映画三昧している。この度3年越しの夢が叶い、コリン・ファース主演作「フィーバー・ピッチ」で字幕翻訳家デビュー! 趣味はスキューバダイビングとビリヤード(どっちも超ヘタ)。日本から連れてきた耳垂れウサギを飼っている。


■過去記事一覧



写真01
「Transamerica」
ポスター

写真02
「THE MATADOR」ポスター

カリフォルニアはサンタクルーズから、毎月最新ホヤホヤの映画情報をお届けする「もぎたて映画通信」。アカデミー賞発表を間近に控えた胸騒ぎの第21回は、ノミネート作を含めた話題作を、えーい7本まとめて紹介だ! もってけどろぼー。

☆『トランズアメリカ』 "Transamerica"

人気テレビドラマ『デスパレートな妻たち』の女優、フェリシティ・ホフマンが女装の男性を演じ、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた話題の映画です(今年のアカデミー賞はホントにレズゲイ映画祭みたい(^_^;))。

ブリー(ホフマン)は、待ちに待った性転換手術を1週間後に控えていた。だが突然、存在さえ忘れていた息子のトビーから連絡が入る。トビーは万引きで逮捕されたが、母親が亡くなったために彼が身柄を引き受けにいかなければならない。ブリーはロスからニューヨークへ飛ぶが、自分が父親であることを隠し、教会から派遣されたボランティアだと名乗る。しぶしぶ1ドルで息子の身柄を引き受けると、2人は車でロスまで戻る旅に出るーー。

この映画の強みでもあり弱みでもあるのは、女性としてのブリーが、とてもお堅くて保守的な、マナーにうるさい中年女性であること。色気ゼロのコンサバな衣装に身を包み、息子の言葉遣いやマナーを注意し、人類学に造詣の深いブリーは、異常な厚化粧の点を除けば、映画の中の主人公としては今時めずらしいくらい身持ちの堅い、教養ある女性です。そこが弱みでもあるのは、ブリーが保守的な性格でなければ、ストーリーが成立しなかったこと。彼女がもう少し恋愛面に開放的だったら、もしくはトビーがもう少し反抗的で荒っぽかったら(十代のジャンキーでしかもNYの男娼という設定ながら、トビーはとても素直でおとなしい)、一緒に旅行なんて無理だし、親子として向き合うチャンスは金輪際なかったでしょう。そのへんの物語作りの甘さが、フェリシティ・ホフマンのみごとな「女装の男性」ぶりを誰もが絶賛しながら、映画そのものには歯切れが悪くなる意見が多いゆえんじゃないでしょうか。監督によると、本作は「オオカミの皮を被った羊」、つまり一見スキャンダラスな映画を装いながら、本当は普遍的な、家族の絆を描いたお話なのです。

トビーは小さな頃から大事にしていたおさるのぬいぐるみを持っているのですが、あれはおさるのジョージかな? 映画の途中でいなくちゃっうんですが、結局あのおさるはどうなったんだろう(←この辺もツメが甘い)。最後まで持っていたのかな、それともブリーの実家に置いてきちゃったのかな。ブリーの父親役のバート・ヤングが、妻の尻に敷かれる優しい顔のお父さんで、いい感じでした(^_^)。ブリーの同情的なカウンセラー役で、素敵なエリザベス・ペーニャも出ています。

以前ウィリアム・H・メイシーがトークショウに出た時、家族の話をしていて、「ウィリアム・H・メイシーの奥さん」てどんな人だろう!?って興味を持ったのですが、フェリシティ・ホフマンでしたか(^_^)。演技派夫婦ですねぇ。メイシーは、本作のエグゼクティヴ・プロデューサーもつとめています。

☆"THE MATADOR"

 これは、どこからほめればいいのかわからないくらい、いろいろな面白さがつまった映画でした。

  ピアース・ブロスナン扮するアイディンティティ・クライシスに陥った殺し屋と、たまたま同宿して彼に気に入られたビジネスマンのグレッグ・キニアという取り合わせの、ユーモア・アクション・ピカレスク・スリラー。『ロスト・イン・トランスレーション』の殺し屋版といってもいいかも(^_^)。ベン・キングスレーの『Sexy Beast』にもタイプが似ています。『Sexy Beast』では冒頭岩が落ちてくるけど、本作では木が倒れてきます。どちらも、平和に暮らしていた主人公のもとに、災厄のようなはた迷惑な人物がやってきて彼らの平和が破られる、その後の展開を暗示してます。

2人が出会うのはメキシコシティ。建物の色づかいがビビッドで、おしゃれなんですが、強烈すぎてクラクラします。ワビサビとは対極の、必殺の色づかい。

ピアース・ブロスナンは少し苦手だったのですが、見直しました! 海パン一丁とカウボーイブーツ姿でホテルのロビーを歩くなんてのは序の口で、果ては○○○ー○のカッコしちゃいますからねー。そこまでやるか! 同じ殺し屋でも、ダンディな007とは、180度違います。監督によると、ピアーズ自らこの役をやりたがったのですが、彼の仕事上のパートナーたちは、ヒゲを生やしたり、白髪交じりのツンツンヘアーにしたり、安っぽい金鎖を下げたりするこの役の外見はピアーズのイメージを損ねるからと、ヒゲはやめてパリッとした服を着せるよう、ゴリ押ししてきたらしいです。でも、プロズナンは自ら監督のイメージ通りの外見でロケ地にのぞんだそうです。いろんな人の飯のタネになっているスターって、自分がしたいようにするのもままならなそうですね。 

本作は、単純に、映画って楽しい! って思わせてくれました。最後の、「映画を観るのが好きだった父へ」という一文が、とてもこの映画を締めるにふさわしかったです。これ以上書くと、面白かったところをひとつひとつ挙げていくしかなくなって、長くなりそうだからこれでおしまい。

☆"The White Countess"

『眺めのいい部屋』『日の名残り』など、たくさんの名作を生んできたマーチャント/アイヴォリーコンビの、たぶん最後となる作品。プロデューサーのイスマイル・マーチャントが昨年亡くなったためです。脚本を、『日の名残り』のカズオ・イシグロが手がけています。

1930年代の上海。盲目の元外交官トッド・ジャクソン(レイフ・ファインズ)は、「白い伯爵夫人」というクラブを開き、ロシアから家族とともに逃れてきた本物の伯爵夫人、ソフィア(ナターシャ・リチャードソン)をマダムとして雇う。外の世界のきなくささや悲惨さから隔離されたクラブは、トッドにとってもソフィアにとっても、そして謎の日本人マツダ(真田広之)にとっても、ひとときのやすらぎの場所となる。だが、やがて日本が上海に侵攻してくるというウワサがたち始めーー。

ソフィアはトッドと出会う前、娘や義理の母たちを養うため、ダンサーやホステスなどをして働いていたのですが、義理の母たちは感謝するどころかソフィアを「罪深い」といってさげすみ、ソフィアの娘、カーチャから引き離そうとします。旧弊なしきたりに縛られたままの義理の母とおば役は、リン・レッドグレーヴとヴァネッサ・レッドグレーヴの姉妹が演じていますが、よく考えたら、ナターシャ・リチャードソンはヴァネッサの実の娘なんですよね。真田広之は受けの演技に徹して渋かったです。

上映時間が145分と長く、物語は静かにゆっくり進むので、セリフのリスニングに疲れて途中うっかり寝てしまいました(^_^;)。とはいえ、じっくりした演出を楽しめる人にはたまらない、芳醇で見応えのある大人の作品です。(アジア文化好きの年配の知人は、2回も見たそうです。根性あるなあ)クリストファー・ドイルによる映像も、リチャード・ロビンスによる音楽も素晴らしいです。どこまで上海ロケか分からないけれど、セットをみじんも感じさせないリアルなセッティングでした。

オープニングの、舞踏室で優雅にワルツを踊る男女の上に、スノーボールのように雪がハラハラ落ちるイメージは、ソフィアの追憶。数年前、爆発に巻き込まれて視力と家族を失い、外交政治に幻滅してただのディレッタントになったトッドが、ずっと頭の中に描いていたという「白い伯爵夫人」のイメージは、映像として具体的に映ることは、もちろんありません。イメージは頭の中にあるからと、あえてソフィアの顔に触れようとしないトッド。ポスターには情熱的にキスをしているトッドとソフィアの写真がフィーチャーされてますが、本編の中ではキスはおろか、触れあうこともほとんどない(少なくとも私が起きている間は(^_^;))、古風で抑制の利いたメロドラマです。やっぱり年配のご婦人向け?

☆『カポーティ』"Capote"

『ティファニーで朝食を』の原作者、トルーマン・カポーティが、彼のもう一本の代表作「冷血」を書きあげるまでのエピソードを映画化したものです。カポーティ役のフィリップ・シーモア・ホフマンは、アカデミー賞主演男優賞最有力候補です。

「冷血」は、小説にルポルタージュの手法を取りいれた「ノンフィクション・ノベル」として、文学界に新しいジャンルをもたらしたそうです。映画は、とある農場主の一家惨殺の新聞記事を読んだカポーティが、興味を抱くところから始まります。

カポーティ作品は読んだことがなくて、ホフマンのなりきりぶりを賞賛されても分からないのですが、それよりも、カポーティの取材旅行に同行するハーパー・リー像にいたく感動しました。「アラバマ物語」の作者にふさわしい、物静かで鋭い観察力の持ち主として、カンザスの保守的な土地から浮きまくっているカポーティを、絶妙にアシストするリーを演じたキャサリン・キーナーも、助演女優賞にノミネートされています(私のカポーティのイメージというと、彼がモデルとされる「アラバマ物語」のディル坊やになります(^_^;))。眼鏡の下から目尻を押さえるクセは、カポーティ本人のものなのでしょうか。最初はうさんくさい目で見ていた地元の警察関係者たちも、相手を武装解除させてしまう独特な才能で、すぐに手なづけてしまうカポーティ。

映画は終始カポーティだけに的を絞った演出で抑制が利き、最後まで緊張感に満ち、素晴らしかったです。犯人の一人とカポーティとの、二人にしか分からない微妙な関係性。犯人の几帳面で美しい文字と、手なぐさみに書き散らしたスケッチにハッとさせられます。どうしてこんな繊細そうな人が、あんな残虐な犯罪に関わったのか?

 この映画を見る少し前に、去年のアカデミー賞短編アニメ賞を受賞した"Ryan"というCG作品を見る機会がありました。やはりオスカーにノミネートされたこともありながら、今はホームレス生活をしているカナダのアニメーター、ライアン・ラーキンを取材した「ドキュ・アニメ」なのですが、『カポーティ』と奇妙に重なる映画です。どちらも、取材相手を容赦なく搾取し、自分は栄光を手に入れる。ただ、カポーティの計算違いは、当事者に許されてしまったことで、一方的な搾取の構図が最後に逆転してしまいます。カポーティの良心と引き替えに出来上がった「冷血」、今度読んでみようと思います。

☆『マッチ・ポイント』"Match Point"

ウディ・アレンがロンドンを舞台に撮ったピカレスク・ロマン。元テニス選手で、今は金持ち相手のテニスクラブでインストラクターをしている野心家の主人公をジョナサン・リース・マイヤーズ、彼が一目惚れしてしまう婚約者の兄のGF役に、スカーレット・ヨハンソン。

ウディ・アレン映画からウディ・アレンっぽさを抜いたら、正攻法の直球ど真ん中映画ができちゃった、って感じでした。テニスと主人公の綱渡り人生とのメタファーとか、映画クラスの教材になりそうな端正な作品です。ハラハラドキドキのサスペンスで観客を引きこんでしまうところもね。とっても見応えありました。

この映画のヨハンソンは非常にセクシーで、もう『ゴースト・ワールド』の仏頂面がかわいい女の子では、ないですね。リース・マイヤーズは、BBCTVシリーズの『ゴーメンガースト』のスパイク役のような、野心を秘めた小悪党役がよく似合います。誰も観ていないところで見せる下卑た表情&涙目が絶品! アレンは彼のテーマソングに、レコード盤のオペラを使っているのですが、レコード盤なのには理由があります。それは何か? 2ページ以内のエッセイにまとめなさい。

アレンの『誘惑のアフロディーテ』では、ギリシャ演劇のコーラスを狂言回しに使っていましたが、本作は、最後にデウス・エクス・マキナが出てこないギリシャ悲劇のような趣きがありました。

☆”The Mysterious Geographic Explorations of Jasper Morello"

今年のアカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされた作品です。監督は、オーストラリアのアンソニー・ルーカス。伝統的な影絵アニメの手法に、CGでレタッチした幻想的な映像が美しい映画です。

謎の奇病に冒された町を離れ、治療法を探すために空を航行する船で旅立つ航空士、ジャスパー・モレロのミステリアスで恐ろしい旅を描きます。ポーやジュール・ヴェルヌに影響を受けたという世界観に支配された、「ガジェット」や「MYST」などのゲームを彷彿させるスチームパンクっぽい異世界の映像がとにかく魅惑的です。ジャスパーや変わり者の生物学者を乗せた船は、やがて幽霊船に出会い、さらに未知の浮島にたどり着き、不思議な生き物を持ち帰ります。この辺から展開が「エイリアン」になっていき、影絵アニメなのになかなかグロテスクです。マッド・サイエンティストの生物学者の声を、『マトリックス』のアーキテクト役に扮したヘルムート・バカイテスが当てています(短編アニメって、ポール・ジアマッティとかジェイク・ジレンホールとか、結構有名どころがナレーションをやっていて面白いです)。

他のノミネート作では、ちっちゃな女の子の小銭目当てに演奏合戦をする辻音楽士2人の争いを描いたピクサーの"One Man Band"も楽しいけれど、"Jasper Morello"の映像美と世界観は圧倒的。救いのないエンディングとともに、クセになる魅力があります。資金が集まれば長編を作りたいと監督はいっているので、楽しみにしたいです。

☆『ナイト・ウォッチ』"Night Watch"

ロシア製のCGてんこ盛りファンタジー。「ナイト・ウォッチ」といういいもんと、「デイ・ウォッチ」というわるいもんの争いを描く三部作の第一作です。

オフィシャルサイトで全編を2分半に圧縮した映像が公開されていますが、大丈夫! 114分の本編を見ても、カットのめまぐるしさ、わけわかんなさは圧縮版とまったく同じです!! 前半はチャカチャカしたカット割りとうるさい音響にイライラして精神衛生上このうえなく悪かったんですが、後半は少しスピードダウンしてくれたので、なんとか耐えられました。説明不足、つじつまのあわなさをショッキングな映像でごまかす子供だましの手口に正直むかつきますが、つまならいかというとその反対で、2作目が待ち遠しくなります(←結局だまされている)。原作も読まなくちゃ! 主役のアントンを演じた役者が好みなのもポイント高いぞ! ちまたでは、ロシアの『マトリックス』と評されていますが、それより生きのいいところが『ハイランダー』っぽいですね(ラッセル・マルケイはその後どうしているのだろう・・・)。日本で言うと『幻魔大戦』かな。この監督で『幻魔大戦』作ったら面白いかな(^_^)。

評論家のロジャー・エバートが、映画の中での字幕の使い方を、(皮肉として)弁士になぞらえてるのが面白かったです。彼もわけわかんなかったのねー。

ぢゃ、また来月(あたり)。
(Feb. 27 2006)
電気羊

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