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■記者会見会場にて

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■記者会見会場にて

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■記者会見会場にて

-最初にアメリカは大変美しい国であるということをこの作品で伝えたかった-

 昨年(2005年)の10月26日、都内某所にて『アメリカ,家族のいる風景』公開を記念してのヴィム・ヴェンダース監督の来日記者会見が行われた(実はこの頃はヴェンダース監督のLA3部作の最終章である『ランド・オブ・プレンティ』が日本で公開されたばかりだった)。小津監督の作品をはじめとする日本映画を心から愛し(もう10年以上前になるが、東京国際映画祭で『東京物語』が修復上映された際、目に涙を浮かべるヴェンダース監督の姿は今でも記憶に残っている)、無類の日本好きでも知られるヴェンダース監督はこの来日を心から喜び、『アメリカ,家族のいる風景』についてユーモアを交えながらも真摯に語ってくれた。
  『アメリカ,家族のいる風景』は名作『パリ、テキサス』以来20年ぶりにヴェンダース監督と脚本のサム・シェパードが組んだ作品であり、『パリ、テキサス』では果たせなかったサム・シェパードの主演も実現している。そして、この作品は90年代を中心にアメリカにこだわり続けてきたヴェンダース監督がアメリカを舞台に撮る最後のものでもある(ヴェンダースはすでに居を故郷であるドイツに移している)。そこに描かれるのは監督が魅了された美しいアメリカの風景とこだわった人間(家族)のドラマであり、ヴェンダース監督からアメリカへの美しいラヴ・レターでもある。
  当日の記者会見の内容は以下の通り(質問内容、回答などは読みやすくなるように手を加えています)。

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ヴィム・ヴェンダース:コンニチハ(日本語で)。お会いできて、嬉しいです。私が日本、東京にまた来れたということがどれほど嬉しいかということは、申し上げるまでもないでしょう。この新作の記者会見にお集まりいただいて、本当にありがたく思っています。この作品は製作に4年かかりました。大変誇りに思っている作品ですので、皆様、何でも質問してください。

Q(MC):『パリ、テキサス』以来20年ぶりにサム・シェパードの脚本で撮影したこと、そして『パリ、テキサス』では実現しなかったサム・シェパード主演という夢がかなったのですが、主演サム・シェパードはいかがだったでしょうか。

A:『パリ、テキサス』を撮った当時は私たちはかなり若かったです。ま、少なくとも私たちはそう思っていました。でも、若いにもかかわらず、監督と脚本家のコラボレーションとしてはこれ以上ないパーフェクトなものでした。だから、あえてそれを繰り返し、失敗することがないようにお互いの気持ちが一致するまで仕事はもうしないようにしようということになりました。それから20年が経ち、私の中ではもうそろそろいいのではないかという気持ちが湧き起こってきました。その頃、私の頭の中にはあるアイデア(物語)があったので、サム・シェパードに電話をしてみました。普通、彼に電話をしてもつかまることはないのですが、その時は運良くつかまり、彼が電話に出ました。私がその話をすると彼も同じ気持ちを抱いていました。そこから私たちのプロジェクトが始まりました。
  『パリ、テキサス』で私たちは兄弟のように仲良くなれたのですが、20年経っての再会でもその気持ちがすぐに芽生え、サム・シェパードと仕事をすることがいかに楽しいかということを再認識しました。実はこの作品で私は『パリ、テキサス』の教訓をいかすように心掛けました。それはサム・シェパードに出演してもらうということです。『パリ、テキサス』の時に私は彼に出演してほしいと懇願したのですが、断られてしまいます。その理由は当時の彼はジェシカ・ラングに恋焦がれていて、彼女との共演作へと出演してしまったのです(※『カントリー』リチャード・ピアース監督 だと思われる)。ま、私も同じ立場だったら、彼と同じ選択をしたでしょうから、あまり腹を立てることは出来なかったのですが(笑)。
  ですから、私は今回はある賢い方法を取ることにしたのです。それは最初は彼に頼みもせず、1年ほど経って、ちょうど脚本が半分くらい出来上がった頃に、それを読みながら「この脚本が出来上がったら、ジャック・ニコルソンに見せようと思っているんだ。彼にこの役はピッタリだからね」と何気なく切り出したのです。彼は真のカウボーイですから、その時には反論はみせませんでしたが、タイピングしながら、いつも以上にミステークを起こしているようでした。そして、最後のページを打ち終えた時に、怒った様子でページを抜き取りながら「ジャック・ニコルソンは馬にも乗れないんだぜ」と言ったのです。その時に私はこの作品の主演俳優は決まったなと思いました。

Q:不気味でミステリアスな雰囲気を持つティム・ロスの役柄が作品のスパイスになっていると思ったのですが、その辺はどのような考えから生まれたのでしょうか。

A:最初の段階でこのキャラクターをサム・シェパードと描いていた時、本当に楽しんでいました。誰にやってもらうかを考えた時に、私が考えたことは、とにかくこのキャラクターは面白い捻りを加えられる俳優がいいということでした。そこに加え、アメリカの砂漠の中に迷い込んだイギリス人という設定も面白いなということでティム・ロスを起用しました。ティム・ロスはこれ以上言うことがないくらい素晴らしい俳優です。この役をとてもうまく演じてくれ、映画史上、最も不思議で不気味な賞金稼ぎ(ヴァウンティ・ハンター)が登場したと私は自負しています。スーツをきちんと着た、官僚的なヴァウンティ・ハンターなんていなかったと思いますし、従来とは正反対のイメージを彼は生み出してくれたと思います。彼との仕事はとても楽しかったです。
  ひとつ、皆様に裏話を紹介しようと思います。ちょうどネバダ州のエルコでサム・シェパード演じるハワードが母親に会いに行くシーンを撮影している時でした。このエルコの町ではティム・ロスが演じるサッターには小さな2つのシーンを用意していましたが、待っている時間が長いからか、ティム・ロスはすごくつまらなそうで不機嫌だったんです。彼が登場するシーンはレストランでウエイトレスにこの俳優を見たかと尋ねるシーン、ハワードの母親に会いに行き、玄関先で問答しすぐ帰っていくというシーンでした。あまりにも機嫌が悪いので、ある日、私は彼にその理由を尋ねてみました。彼は「この地球の中で最も敬愛しているエヴァ・マリーセイントと共演しているのにまともなシーンがひとつもない。」と言うんですね。そこで私がサム・シェパードに「何かいいシーンをひとつ書いてくれないか」と頼んで生まれたのが、ハワードの母親の家を訪ねクッキーを食べるシーンなんですが、結果的にあのシーンはとてもいいシーンになりましたが、私としては全く必要のないシーンだと思ってもいます(笑)。あのシーンはティム・ロスのために作ったものです。
  また同じことがビュートで撮影している時にも起きました。私がまた「どうしたの」と尋ねると「分からないのか。僕はジェシカ・ラングと共演するのが長年の夢だったのに彼女とのシーンが全くない。」と言うんですね。それでサム・シェパードに頼んで生まれたのが、ポテトの付け合せを説明するシーンなんですが、また全く意味のないシーンを付け加えてしまいました(笑)。

Q:ヴェンダース監督の作品では音楽が重要な要素になっていますが、今回の作品ではT-ボーン・バーネットを起用することを最初から決めていたと聞いています。その理由を教えてください。

A:私はこの作品にはユニークな音楽をつけたいと思っていました。そしてこの物語はユタ州、モンタナ州、ネバダ州で展開します。これらの州はアメリカの西部の中でも北部に位置し、ポピュラーな音楽はもちろんカントリー・ミュージックです。でも、メイン・ストリームのカントリー・ミュージックは私はあまり好きではないのです。ですから、今回はパンク・カントリー・ミュージックを生み出し、つけたいと思い、それにはT-ボーン・バーネットが理想的だと思ったのです。彼はアメリカのミュージシャンの中でも最も過小評価されていると思います。そのひとつの理由は彼はとてもシャイで、ツアーにも出ないのです。私は彼のアルバムが本当に大好きなのですが、一番最近のアルバムでも12年前(※1992年発表の「The Criminal Under My Own Hat」)、その間に彼はプロデュースなどをしていたのですが(※プロデューサーとしてはエルヴィス・コステロなど第一線で活躍している。ボブ・ディランのローリング・サンダー・レビューへの参加も有名(ここでサム・シェパードとは知り合っているはず)。映画ファンには『オー・ブラザー!』のサウンドトラックが有名だろう)、あまり自分の曲を作っていませんでした。今回はそんな彼に無理やり新しい曲を作らせようという気持ちもありました。ボノが歌うタイトル曲ともう1曲を除いて、彼が全てを歌っています。
  今回のこの作品のために彼はユニークなバンドを編成してくれました。その中に参加している2人のミュージシャンを説明したいのですが、まずはオープニングの印象的なギターを担当しているマーク・リボーです。トム・ウェイツとツアーなどもしているのでご存知かもしれませんが、この作品のギターのほとんどは彼が弾いています。私は現役のギタリストの中では彼が最高だと感じています。次がドラムのジム・ケルトナーです。彼はライ・クーダなどあらゆるバンドでプレイしている伝説的なドラマーといっても過言ではないのですが、彼も現役のドラマーの中では最高だと感じています。

Q:90年代以降、監督の作品はアメリカを描いたものが多いですが、なぜ、アメリカにこだわるのでしょうか。風景以外の部分で教えてください。

A:私は1996年から8年間アメリカに住んでいます。そういった理由もありますがアメリカで今起きている社会的な現象は数ヶ月、数年後には世界に広がっていきます。したがって、アメリカで撮影しているとちょっと近未来的な感覚を抱くのです。
  それと、どうしても風景に触れたいのですがアメリカの風景は見ているだけでも、スケール感がどんどんどんどんと広がってくるのです。それは本当に魅力的です。
  私は予定していたよりもアメリカに長く滞在することになりました。この作品が5年近くかかった、『ランド・オブ・プレンティ』を撮っていたということもあります。でも、今はアメリカについて語りたいことは語りつくしたということで、ドイツに戻っています。
  結果的にこの作品は私にとってアメリカへの決別にもなります。せっかく、長い期間、アメリカに住んだのだから、悪い形ではなく、出来る限り、美しいアメリカをこの作品には収めました。

Q:監督の作品では女性がキーパーソンとなっていますが、監督は女性をどのようなイメージで捉えていますか。

A:おっしゃるとおりです。『ランド・オブ・プレンティ』もこの作品もヒーローが負け犬になっています。特にこの作品のハワードは落ちぶれて、どん底の状態にいます。私にとってこの作品に登場する4人の女性は真の意味でのヒーローです。この4人の女性は現実を見据え、把握し、対応しています。逆にハワードはその部分が欠如し、自分自身の世界にしか生きることが出来ません。
  私は女性は対立しなければならないという状況をうまくこなし、真実を受け入れ、言葉を使い対処する能力に長けている思います。そういったことに対応できる文化を持っていると感じます。それは素晴らしいことです。
  ですから、この作品では男であるハワードとアールは初めて出会った時に喧嘩をします。ハワードは大人になりきれていないんですね。そうした部分はホワイトハウスに今住んでいるカウボーイと同じかもしれません(笑)。
  この作品の4人の女性の中で最も大きなヒーローはスカイだと私は思っています。スカイはこの作品に全く新しいものを吹き込んでいます。それはハワードにとってもアールにとっても全く新しいもの“人を許す”ということです。そして“人を許す”ことができれば、全く新しい展開が待っているのです。

Q:ドイツに戻り、これからこういう映画を撮ってみたいという計画はありますか。

A:正直に言いますと、まだ何も決まっていませんし、アイデアもありません。しばらくはドイツの風景を吸収して、新しいことを考えたいです。
  これが最後の質問という形では、この会見を終わらせたくないので、もうひとつ質問をしてください。

Q:アメリカでの最後となるこの作品で一番伝えたかったことは何ですか。

A:最初に、アメリカは色々とあったけれども、まだ美しい国であるということを伝えたいです。アメリカ人自身もそれには気付いていないかもしれませんが、大変美しい国です。この作品の撮影の舞台となったビュートという街は今までに撮影の舞台となったことが一度もない街なのです。
  もうひとつ、最近、周囲を見渡すと父親不在の家庭で育った子供たちが増えていることを感じます。これは世界的な現象でどんどんどんどんと父親の顔を知らずに育った子供たちが増えてきているように感じます。私は父親を深く愛し、尊敬し、育ってきました。子供の頃から大人になってからも、父親はいつも私のそばにいて、色々とアドバイスしてくれる存在でした。時には喧嘩をすることもありましたが、大人になってからは親友のように付き合うことが出来ました。父親からの影響なくしての自分の人生は考えられませんし、もし、父親がいなかったら自分はどうなっていたかと感じてしまうくらい大きな存在だったのです。私自身、父親を知らずに育つということがどういうことなのか想像がつきません。父親は子供にとってはもちろんなのですが、大人にとっても子供を持ち役割を果たすことが必要であることをこの作品では伝えたいと思いました。そうした部分の欠如がいかに深刻であるかも分かっていただきたいのです。もし、そうした状況にいるのなら、ハワードのように待つのではなく、もっと早く表す努力をしてほしいです。
  そして最後に男性たちはプロポーズするのに30年も待つんじゃないよということです。30年後のプロポーズなんてどうしようもないし、遅すぎます(笑)。

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映画『アメリカ,家族のいる風景』は2月18日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーです。

作品詳細はこちらで!

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